こんにちわー、お酒ミライの神奈川建一です。インフィニット酒スクール・日本酒初級講座、第7回目のレポートです。

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皆さん、日本酒の特定名称をよくご存知かと思います。「純米酒」「大吟醸」「本醸造」などですね。近年日本酒の出荷量は右肩下がりの中、特定名称酒は逆に増加傾向だそうです。僕らが主に飲む地酒も大半は特定名称酒である点から、この分野をよく知ることは大切です。

実はこの特定名称、日本酒の味を知るための表示としては意味がないということを知ってますか?「んなバカな!純米大吟醸と本醸造じゃ、味は全然違うだろ」たしかにそのとおりです。いや、正確に言えばそのとおり「だった」です。

特定名称は「製造方法」「精米歩合」「使用原料」にて区分されています。特に精米歩合はお酒の味に大きな影響があり、精米歩合50%以下でないと名のれない大吟醸が貴重と考えられていました。

しかし、現在日本酒の醸造技術は大幅にレベルが上がっており、また各蔵が多様な味を追求しているため、同じ特定名称酒でもまったく味が違うお酒が出てきています。

例えば磯自慢・別撰本醸造は精米歩合60%な上に、吟醸造りをしています。これは特定名称上は吟醸酒を表示できるスペックです。しかし、磯自慢のラインアップ上の整合性か蔵独自の基準のためか、本醸造と表示されているのです。

また、精米歩合すら味を推測するのに役立たなくなっています。代表的な所で新政・日本酒古典技法大全で発売された精米歩合94%のお酒は、綺麗なパイナップルの香り漂う驚きの味でした。これは特定名称上は純米酒ですが、純米吟醸酒でも通るぐらいの味でした。


この特定名称は酒類業組合法という法律で定められた区分なのですが、そもそもこの法律は「酒税の保全と酒類業界の安定のため」つくられた法律なのです。そう、あくまで日本酒業界のためであって、日本酒を飲む消費者のための決まりではないのです。

なので、消費者視点から見るといろいろ問題点があります。わかりやすいのが「特別本醸造」と「特別純米酒」。これ、実はなにも明確な条件がありません(精米歩合の基準はありますが)。蔵元が他の自分の商品と比べて特別だと思えば名のれてしまうのです。つまり、Aという蔵の特別純米とBという蔵の特別純米は、全然違う基準でつくられている可能性があるわけです。

また特定名称ではありませんが、任意記載事項(生一本や生酒など)も問題が多い。「原酒」と表記されていればお酒を搾った後に水を加えていないことを意味しますが、実はアルコール分1%未満の範囲で加水調整することは認められています。これは醸造するタンクごとに発生してしまうアルコール度のばらつきをフォローできるようにする規定かと思われますが、消費者から見れば騙されたようなものです。まさに生産側だけの都合と言えるでしょう。


こういった問題点は一部蔵元でも問題として認識されていて、そういうところは特定名称を使用することをやめています(仙禽、新政、村祐、剣菱など)。どういった基準、説明が正しく日本酒の味を飲む人に伝えられるのか。特定名称酒がもてはやされる今だからこそ、考える必要があるのでしょう。

◆◆◆

次は日本酒の成分表示について。日本酒度、酸度、アミノ酸度の3つが代表ですね。この成分表示を理解するポイントは「これらは単なる数値であり、味を表現していない」ということです。

まず日本酒度ですが、水より重い糖類が多いか少ないかをしめす数値であって、甘口辛口を表現するバロメーターではないです。アミノ酸やアルコールもこの数値に影響を与えています。逆に、まず表記されてませんが、グルコース濃度はブドウ糖の濃度を意味するので、味に直接的に関係する成分表示です。

酸度(大半は乳酸、コハク酸、リンゴ酸のこと)も味の酸っぱさを意味しません。日本酒を酸っぱいと感じるかどうかは、加水の具合、アルコール度数で変わってくるからです。

アミノ酸度、これもあくまで数値です。他とのバランスで味が決まっていきます。アミノ酸度は低いと味が収斂します(ボリューム感が減る)。その場合はブドウ糖と酸とチロシン(渋み成分)で味をつくるしかないのだそうです。


つまりこれら数値(加えてアルコール度も重要)が相互依存的に影響しあって、日本酒の味は決まってくるわけですね。僕はこれを聞いて「なんかファッションに似てるなー」と思いました。

例えばデニムジーンズはもともと労働者の服から発展したもので、とてもカジュアル感ある洋服です。でも、ジーンズをキレイめ、フォーマルに着れないかというと、そんなことはないのは皆さんご存知でしょう。着こなし次第でいくらでもできるはずです。しかし、ジーンズがその人のスタイルに与える影響はとても大きいので、カジュアルに見せないためにはフォーマルなジャケットやシューズを使うなどの方法でバランスをとる必要があります。

日本酒も同様で、昔の日本酒度が低い、マイナスなお酒はべたべたに甘く、辛口派と言われる人にはクドいと嫌われていました。しかし、酸度を高くし、アミノ酸度を低くすると酸味のスッキリ感とボディの軽やかさのおかげで、甘味はむしろなめらかになり、ドライで甘いというまるで印象の違う日本酒度マイナスのお酒ができます。これには辛口派もニッコリです(ちなみにこれは新政の酒づくりです)。


この講義を聞いていて、「難しすぎるんじゃ、日本酒!」ってちゃぶ台ひっくり返しそうになりました(笑)。皆さんはどう感じたでしょうか。確実に言えそうなことは、まだまだ日本酒の味を正しく伝える技術、文化は未熟であり、逆に改善の余地がたくさんあるということです。他の酒類はもちろん、まったくの異分野から学ぶことは多そうです。いろいろな人が参入しつつある現在の状況は、日本酒の未来に大いにプラスなのではないでしょうか。


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それでは今回のティスティングですー。
17s




①「モダン仙禽 雄町 無ろ過原酒」
精米歩合40%/50% アル度16%
日本酒度-2 酸度2.3
アミノ酸度:非公開 酵母:T-S

②「常山 純米大吟醸 美山錦」
精米歩合50% アル度16~17%
日本酒度+3 酸度1.3
アミノ酸度0.8 酵母:FK-5


③「一白水成 純米吟醸 槽垂れ生」
精米歩合50% アル度17%
日本酒度+2 酸度1.2
アミノ酸度:非公開 酵母:こまち


④「七田 純米」
精米歩合65% アル度17%
日本酒度+4 酸度1.7
アミノ酸度:非公開 酵母:佐賀9号


以下、先生のコメントです。

①はスーッとした香りがあるが、これは酸とアルコールのせい。日本酒度マイナスだとアメみたいな香りが出る。火入れだともっと出る。これはメイラード反応によるソトロンのせい。モダン仙禽はカプロン酸エチル系の香り(クラシック仙禽は酢酸イソアミル系)。16%で原酒なので、糖もアミノ酸もたっぷり入っている。日本酒度マイナスなのに甘い感じがしないのは、2.3という高い酸度のせい。こういうバランスはありだが、ちょっと飲み疲れるかもしれない。T-Sは栃木酵母のこと。

②はFK-5を使用。これは福井酵母で協会14号酵母からの分離。香りがおだやかで酸をつくらないのが特徴。味は前半は良いが、後半の刺激が強すぎる。これはアミノ酸度が低いせい。味が収斂するので、刺激が目立ってしまう。アルコール度数を下げるのが定石だが、それをしないなら熟成でなんとかするしかない。

③はかなり若い香り。アセトアルデヒド(生酒に多い成分)がたっぷり出ている。こまち酵母は秋田系の酵母で、酸をつくらないタイプ。このお酒は甘さが上手に出ていて、後半の味もまとまっている。アルコール度が高いのに見事。②との違いはアミノ酸の差だろう。これは熟成の成果と思われる。アミノ酸を高くするには麹を変えるのが一番いい。②との差は、麹とお米の溶けやすさかもしれない。

④、これは吟醸造りをしている。アメ系の香りが出ているので、メイラード反応からのソトロンが存在。1年は熟成してると思われる。酵母はカプロン酸エチル系だが、お米をあまり磨いてないので、香りは少なめ。お酒の色は緑が多いので、古いわけではなく若い。このお酒は酸味苦味もあるが甘味うま味も多いので、非常に濃厚。だが、刺激が多すぎて飲んでてホッとしないのがよくない。お水を少し足すと丸みが増して飲みやすいので、やってみよう。

◆◆◆

以上、今回の講義でしたー。僕的にはようやくお酒の成分と味がリンクし始めたかな・・・といったところです。まだまだ全然わかってませんが!特に香りは、複数の香りを嗅ぎ分けるテクニックがマジ難しいです。隠れてる匂いとかどうやって気づくんじゃい!みたいな。あー、道のりは遠いです。

それでは皆さん、また次回のレポートでお会いしましょう~。

第8回はこちらです。



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